日立建機が教育・研究機関との連携を加速する。茨城大学と人材育成や研究開発などで相互協力する包括連携協定を3日に締結。共同研究をはじめさまざまな連携を通じ、顧客に寄り添う革新的なソリューションの創出に向け新たな技術を探索する。同社が教育・研究機関と包括連携協定を結ぶのは初めて。茨城県内に拠点を置く企業と大学のオープンイノベーションにより、社会価値の創出や地域の発展に貢献する。
両者は同日、水戸市の茨城大水戸キャンパスで調印式を開き、先崎正文社長と太田寛行学長が協定書に署名した。新たな価値創造のオープンイノベーションに取り組む同社と、ステークホルダーとの共創による教育や研究を進める同大学の方向性が一致した形だ。
先崎社長は建機オペレーターの減少や高齢化、環境負荷の低減、安全性向上など業界を取り巻く課題が「複雑、高度化している」と指摘。その上で建機の開発に必要な技術分野が電気電子や情報通信、ソフトウエアへと広がっていることを踏まえ「幅広い分野を総合的に扱うエンジニアの育成が急務だ」との考えを示した。
共同研究などさまざまに連携し、「われわれが目指す顧客に寄り添う革新的なソリューションの創出に向けた新たな技術探索を図る」と協定締結の狙いを説明。「茨城県に立地するわれわれが緊密に連携、協力を図ることにより、その成果を地域社会の発展へと還元する」と述べた。
茨城大は工学部と大学院理工学研究科で、地域産業に貢献する製造系の高度ITエンジニアの育成に力を注いでいる。地域企業と協力して機械や電気、電子、情報工学といった分野をまたぐ実践的カリキュラムで教育を展開。2006年からは「サステイナビリティ学」の研究や教育に取り組んでいる。
太田学長は「このタイミングで、サーキュラーエコノミー(循環経済)やカーボンニュートラル(CN)への対応を強化している日立建機と協定を結ぶことで、社会実装、社会還元の道を得られた思いだ」と今後の取り組みを展望した。
同大学は3年次に原則、必修科目を開講せず、特に学外での主体的な学びを促す期間「iOP(internship Off-campus Program)クオーター」を設けている。太田学長は「今は4年間キャンパスの中で学ぶ時代ではない。これからの大学は社会と接しながら、学生が自己実現を図る場を提供しなければならない。そういう意味で、日立建機は良いパートナーだ」との期待感を示した。
日立建機は現在、デジタル技術を含む幅広い分野を総合的に扱っており、新たな価値を創造するためのエンジニア育成に注力している。その一環で産学問わずさまざまなパートナーとオープンイノベーションの推進にも積極的に取り組んでいる。
今回の協定締結を機に、大学院修士1年を対象にした企業提携講座を25年度にも開設する。同社社員が講師となり、理工学部の学生にものづくりの基礎知識や安全、品質保証などの考え方などを講義。ものづくりに関わる企業が求める人材を育成する。土浦工場(茨城県土浦市)でインターンシップの受け入れも行う。
共同研究も始まる。研究内容は未定だが、先崎社長と太田学長は「持続可能な地球環境の構築」を研究テーマに据える。
太田学長は新しい学問として「気候変動科学」の確立を目指していると説明。「二酸化炭素(CO2)を固定化し燃料にしたり、水田で発生するメタンを活用したりする。企業がそれらを商品やサービスにどう生かすか考えることも大切。(気候変動に対し)緩和策と適応策を組み合わせた社会モデルを考える上で、建設現場のサステナビリティに取り組む日立建機のような企業との連携は重要だ」と語った。
先崎社長は「お客さまが求めるサステナブルな環境づくりをサポートする。そのため広い視野を持つ大学と連携し、オープンな関係で研究ができることはわれわれにとってもプラスになる」との考えを示した。
日立建機は企業のPRを目的に、茨城大の水戸キャンパスと日立キャンパス(茨城県日立市)にある施設のネーミングライツ(施設命名権)の取得も予定する。協定を結んだ3日、先崎社長が愛称を付ける予定の水戸キャンパスの中庭を視察。「学生が集まる動線の中にあるので、カットモデルの展示や電動ショベルを使った実演などいろいろなイベントを展開してみたい」と展望を語った。