川崎地質が、洋上風力発電の海底調査に関する新技術を開発している。着床式洋上風力発電の地質調査で鋼製櫓(やぐら)を海底に水平に置ける装置を製作し、よりコストを抑えた調査を実現。浮体式洋上風力発電では海底に装置を据え付けて行う標準貫入試験(SPT)を船から実施可能にして、固い地盤を効率良く調べられるようにした。「ボーリングと音波探査の両方を行う唯一の会社」(海洋・エネルギー事業部担当者)としての強みを生かした取り組みが進む。
着床式洋上風力発電の風車基礎のボーリング調査では、施工足場として鋼製櫓が多く使われている。櫓を水平に設置する不陸調整装置は、8カ所のスパッド(脚部)が海底に貼り付く形から、タコの脚に例えて「オクトパス」の愛称で呼ばれる。櫓の底盤の四隅などにオクトパスを複数付けることで、海底の凹凸や傾斜を補正する。海底地形に最大5メートル程度の不陸があっても鋼製櫓を安定的に設置できるようにした。櫓のサイズに合わせ、12カ所にスパッドを付けたものもある。
オクトパスを開発した背景には「調査コストを抑える狙いがあった」と海洋・エネルギー事業部の担当者は語る。海上調査で普及している鋼製櫓は安価だが、凹凸がある海底では安定性を保てない弱点がある。そうした場合は、台船を足で支えるSEP(自己昇降式作業台)が用いられる。
かつては水深30メートル以内の港湾区域での調査が主だったが、洋上風力発電の需要により、港湾区域外を対象とするものが増えている。川崎地質は2021年に最大水深50メートルまで対応できる鋼製櫓を開発した。しかし、凸凹地形では深場に対応できるサイズのSEPを組み立てなければならず、費用の跳ね上がりが著しい。そのため、深場の凹凸地形でも櫓による調査を行えるように解決策を探ってきた。
最近は広い海域を対象とした浮体式洋上風力発電への期待の高まりを受け、より深い海底の調査技術も求められるようになってきた。音波探査に使う船を多く持つ川崎地質は、船による調査の幅を広げようと模索する。海底に土台を据え付け、そこに固定した棒を通して重りを底に落とすSPTを船から行うため、実証実験に取り組んでいる。
海底の固さを調べるには、船から調査用の棒を海底に押し込んで抵抗力を測るコーン貫入試験(CPT)と、櫓などを設置して実施するSPTの両方が使われている。SPTは設計に用いるN値を直接求められるが、CPTの場合は他の数値から推定せざるを得ない。また、CPTは固い地盤に押し込めない場合もある。
そうした課題がある中、海洋・エネルギー事業部の担当者は「小回りが利く船からSPTを行えば、確実なデータを短時間で取得できる」と話す。地質にワイヤを差し込んでサンプルを採取する「ワイヤーライン工法」を応用してSPTのツールを海底に下ろす技術を開発し、現在は陸上で実証実験を行っている。実験データは、今夏の全国地質調査業協会連合会(全地連)の発表会で公表する予定だ。
実験データを基に、SPT設備を現在保有している船に適合するように整え、実装につなげる。ワイヤーライン工法を活用し、他の調査会社とコラボレーションした海底地質のサンプル採取も計画中。ボーリング調査の技術と、音波探査に使う船などを生かし、拡大する洋上風力発電関連の需要を取り込める体制の確立を目指す。