国土交通省は直轄工事に従事する技能者に支払われた賃金や労働時間を、受発注者間で「見える化」する試みに乗り出す。2025年度に全国の地方整備局で試行工事を始める。受注者の元請と、技能者を雇用する下請に協力を依頼し、支払い賃金と労働時間、労務費の三つのデータを発注者に提出してもらう。見える化の浸透により工事入札などで適正な労務費が確保される環境が創出され、生産性向上による健全な競争も促されると期待する。
有識者会議「発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会」の「建設生産・管理システム部会」が7日開いた会合で説明し、学識者や建設業の元請団体などに意見を聞いた。
公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)の運用指針では、発注者に賃金・労働時間の実態把握を努力義務化している。建設業従事者の処遇や労働環境の改善の必要性から設けられたこの規定を実行に移す。23年9月から試行に取り組む四国整備局徳島河川国道事務所の先行事例で受注者から挙がった意見も踏まえ、試行内容を改善・拡充し全国へ展開する。
会合では、試行工事で元請と下請に対応を求める実態把握の方法などを提示した=表参照。試行案件は受注者の希望も踏まえ選ぶ。鉄筋や型枠などの工種ごとに実態把握する方法とし、技能者を雇用する下請の理解も得て元請が最低一つの対象工種を決定。従事する技能者の賃金・労働時間を把握する。雇用主の下請には個人特定を避ける観点で賃金・労働時間の合計値の提出を求める。元請には下請に支払った労務費と、試行工事での技能者の作業時間を把握してもらう。
国交省が将来的に目指すのは、こうしたデータの見える化による健全な競争環境の実現だ。賃金・労務費の適正額が実質的に確保されることで、工事入札や元下間の工事契約で価格競争の原資として生産性の高さを競わざるを得ない環境になるという絵姿を描く。
小規模な維持工事などで積算上の歩掛かり・経費が現場実態と合わないとの声があることも念頭に置く。見える化されたデータに基づく歩掛かり・経費の設定や見積もりの活用で現場条件に即した積算方法を採用できる可能性も指摘する。
会合では受発注者双方がアクセス可能な「データ共有システム」を国交省が用意する考えも示した。データ入力・格納・出力のルールを決め、データを扱う余計な手間を省く。発注者による現場の状況把握、元請・下請による労務関係のマネジメント、技能者による賃金の確認など、それぞれの立場に応じメリットがあるデータの使い方ができる仕組みを検討する。