廃炉への道として大きな前進だった--。2024年11月、東京電力ホールディングス(HD)は福島第1原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)2号機の溶融燃料(デブリ)の試験的採取に成功した。当初計画より数年ずれ込んだが、本格的なデブリ取り出しへの道が見え始めた。デブリ保管施設の整備に向け、ALPS(アルプス、多核種除去設備)処理水貯蔵タンクの解体も始まった。長い時間をかけながらも、廃炉作業は着実に進んでいる。
同社は1月14日、福島第1原発構内を報道機関に公開した。1~4号機を見渡せる「ブルーデッキ」からは、1号機を覆う大型カバーの設置工事の様子がうかがえた。がれき撤去時のダスト飛散や雨水の流入を抑えるためのもので、今夏ごろまでに設置を終える見通しだ。1、2号機の原子炉建屋内部のプールには、使用済み燃料が残る。1号機の使用済み燃料取り出しは27、28年度の開始を予定している。
2号機は、建屋上部にあるプールにアクセスするため、建屋南側に使用済み燃料搬出用の構台と前室を設置。建屋と前室を行き来するブーム型クレーンを遠隔操作して使用済み燃料を取り出す。構台の鉄骨組み立ては24年6月に完了し、現在はクレーン走行レールの基礎(ランウェイガーダ)を設置している。26年度までに使用済み燃料の取り出しに着手する。既に使用済み燃料の取り出しを終えている3、4号機を含め、31年内に1~6号機すべてで作業完了を目指す。
1~3号機と形や大きさがほぼ同じという5号機の原子炉内部は非常に狭く、天井も低い。全身防護服を身に着けて、圧力容器直下部へ進入すると、天井部一面に制御棒の駆動設備などが配列されていた。
廃炉の最難関とされているのが、燃料デブリの取り出し作業だ。事故当時、運転中だった1~3号機は、津波で電源を喪失した。燃料の過熱を免れず原子炉内の構造物と燃料が溶融し、デブリとなって今も原子炉内部に残っている。1、3号機は格納容器内、2号機は圧力容器底部に多く溶け落ちたと見られている。
原子炉内部は放射線量が高く、人間は近づけない。除去するための装置や用具を開発しようにも、デブリは重さや硬さ、成分が不明なため、まずはサンプルを採取し、分析する必要がある。
試験的なデブリ取り出しは2号機から着手した。23年度に実施予定だったが、新型コロナウイルスの影響や作業の安全性、確実性を高めるために工程を見直した。取り出し作業は24年9月に開始。同11月、大きさ約9ミリ×約7ミリ、重量約0・7グラムの採取に成功した。
採取できたサンプルは1グラムにも満たないが、東京電力HD担当者は「2~3年遅れたものの、結果として取り出せたのは大きな前進だった。廃炉の道として一歩進めた」と採取成功の意義を語った。春ごろにも、2回目の試験的採取に着手する見込み。取り出し作業は段階的に規模を拡大していく。
取り出したデブリは金属製の密閉容器に収め、新たに整備する保管施設に移す。新施設の計画地は、ALPS処理水などのタンク設置エリア(E、J8・J9)にあるタンクを解体した跡地。Eエリアには2号機の、J8・J9エリアには3号機の燃料デブリ取り出し関連施設を設ける。
2月3日、東京電力HDは原子力規制委員会からJ8・J9エリアのタンク解体に関する実施計画の認可を受けた。ALPS処理水の海洋放出で水抜きが先行しているJ9エリアのタンク12基は、同14日に解体を始めた。今月4日に1基の解体が完了。速やかに2基目の解体に取りかかる。
処理途上水を貯留しているJ8エリアのタンク9基は、空のタンク群に処理途上水を移送後、解体に着手する。溶接型タンクの解体は初の事例となるため、知見を蓄えつつ、安全最優先で作業を実施していくという。
事故から14年。現場に立つことで新たな進展を目の当たりにした。廃炉作業が本格化しつつある中、課題も残る。現場に入る作業員の安全管理や作業環境の向上、改善は不可欠だ。現在、構内では1日当たり約4000~4500人が働いているという。多重下請構造のため、東電HD担当者は、「協働者と対話し、さまざまな意見をキャッチアップしていかないとならない」と気を引き締める。