ワールドワイド/寺田吉道国交審に聞く、インフラ輸出で現代的ニーズに対応

2025年3月12日 論説・コラム [10面]

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 米国でトランプ政権が発足し、ウクライナ情勢も見通しが利かないなど、国際情勢は目まぐるしく変化している。「国土交通省の国際政策も機敏に動かなければならない」と指摘するのは、国交省で国際関係施策を統括する寺田吉道国土交通審議官。海外インフラ事業はライバル国との競争が激化し、より戦略的な売り込みが求められる。国際情勢や地域事情などを踏まえ注力すべき分野や、建設会社の海外進出支援などの方向性を聞いた。
 インフラ事業の輸出拡大に向け、政府が2024年12月に決定した「インフラシステム海外展開戦略2030」をベースに国交省の行動計画を整理する意向を示す。「国交省の海外展開が成果を上げてきたのは事実だが、これからは現代的なニーズに対応しなければいけない」と強調。「変わるべきところは変える。相手国のニーズにしっかり応じるのが大事だ」と話す。
 具体例としてタイ・バンコクやインドネシア・ジャカルタで進行中の公共交通指向型都市開発(TOD)プロジェクトに期待を寄せる。GX・DXに最優先に取り組む世界的な潮流に着目し、スマートシティーの展開も模索する。「民間資金を有効活用したいのは多くの国で共通の発想」とも話し、対応すべき課題に挙げる。
 さらには「造るだけではなく、その後のメンテナンス、管理・運営も大事にしたい。そうした意味で海外諸国での制度作り、人材育成にも協力していく」と方向性を示す。世界的に重要性が増している分野として「水」や「物流」にも注目する。
 相手国のニーズに対応するには「日本側にも柔軟さが求められる」。日本が強みを持つ「質の高いインフラ」を生かしつつ、相手国に受け入れられるような工夫が必要と指摘。コスト面を例に挙げて「相手国がどれほどの水準のものを求め、そのためにはどれほどの整備・運営が効率的なのか、もっと意識していい」と話す。日本国内とは違った形態でのインフラ事業にも積極的に対応することを提案する。
 官民の協力でインフラ輸出を加速していく一方で、中堅・中小企業を含めた建設会社や不動産会社の海外進出を後押ししていく考えを示す。世界で日本の町工場の技術力の高さが注目されるように「建設業でも高度なノウハウを持っている中小企業がある」との認識から、「国内市場が相当成熟しているが、海外市場には魅力と可能性がある。そこで独自に培ったノウハウを発揮できるようサポートすることが重要だ」と力を込める。
 特に規模が小さい会社を念頭に「まずは情報共有が大事」と指摘する。海外進出につながる具体的な案件の情報があっても、進出先のビジネス環境やリスク情報が不透明では二の足を踏んでしまう。実際にトラブルが発生し相手国政府などと交渉に当たったり、進出先で制度上の課題に直面したりした場合、対処するための企業体力が不十分とも想定され「そこは国として支えていくべき」と主張する。
 海外展開の情報共有や支援策の提供を行う枠組みとして国交省が立ち上げた中堅・中小建設企業海外展開促進協議会(JASMOC)や海外不動産業官民ネットワーク(J-NORE)があり、この有用性を広く訴える。両組織の会員間で海外進出の事例が多く共有されることを期待し、「小さい会社だからといって、海外に出にくいということにならないようにしたい」と支援体制に万全を期す。
 寺田国交審は世界で求められる日本のインフラシステムの一つとして、鉄道駅など公共交通機関の整備と都市開発を一体で行うTODを挙げる。人口の集積を生かしたまちづくりに有効で、東南・南アジアをはじめグローバルサウス(新興・途上国)では関心が高いとみる。
 日本式の地下鉄整備で快適な電車通勤が根付いた例があるなど、インフラを輸出した国では「日本のおかげで社会が変わった」と言われることが多いという。こうした現地の生活環境の改善などにも貢献していく考えだ。
 国際情勢への機敏な対応の一つとしてウクライナの戦後復興を見据えた動きがある。1月に「日ウクライナ・国土交通インフラ復興に関する官民協議会(JUPITeR)」の設立会合を開いた。ウクライナからはオレクシー・クレーバ復興担当副首相兼地方・国土発展大臣がオンライン参加し「日本の民間企業が革新的なソリューション、技術、リソース、そして大規模プロジェクトを実装する専門性を提供することで強力な変化の駆動力となる」と期待を寄せた=写真。
 設立会合には民間企業約100社が参加。今後も協議会への参画企業・団体を随時受け付ける。寺田国交審は「官民挙げて協力して取り組む」と話す。