大阪・関西万博に多くの建築家が関わっているが、議論をしたり意図を表明したりする場は少ない。そこで万博の会場デザインプロデューサーを務める藤本壮介氏が議論の場としてシンポジウムを企画。万博に関わっている、関わっていない、建築家、他分野など多くの人を巻き込み、万博の意義や建築家の役割を考える。テーマは「大阪・関西万博から建築の役割を考える」。全5回程度を予定。24日に東京都内で開かれた第1回を紹介する。
パネリストは▽伊東豊雄(建築家、大阪・関西万博EXPOホール基本設計・実施設計・工事監理監修)▽妹島和世(建築家、大阪・関西万博シグネチャーパビリオンBetter Co-Being建築デザイン)▽塚本由晴(建築家)▽藤本(建築家)-の4氏。藤村龍至氏(建築家)がモデレーターを務めた。
会場は東京都渋谷区の伊東建築塾恵比寿スタジオ。ユーチューブでライブ配信し、チャットツールを使って質問やコメントを受け付けた。
世界最大級の木造建築物「大屋根リング」を構想した藤本氏は2020年以降、世界の分断が深まる中、「万博の意義は多くの国が1カ所に集まり6カ月もの長い期間、一緒にいること。つながることの意味は大きい」と主張。世界が集まる場について「世界は多様でありながらつながれるというメッセージを発信するには、ある種の強さやクリアで分かりやすさが必要になる。葛藤はあったが、最終的には最もシンプルな円になった」と説明した。
万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に興味を持ったという伊東氏。近代主義思想は技術の進化によって自然(人間の生命力までも)を克服できると考えると指摘した上で、「今回の万博もAIや映像技術の話題ばかり。しかしいのち輝く、すなわち人間の生きることの素晴らしさや喜びは技術では満たされないのではないか」と持論を展開。飽和状態に達している近代化を、万博は問い直すべき場であると訴えた。
SANAA(妹島氏と西沢立衛氏による建築家ユニット)が設計したパビリオンは屋根も壁もなく、万博会場中央にある静けさの森と一体となってたたずんでいるのが特徴。妹島氏は「たまたま敷地が静けさの森の横だった。森から切り離したパビリオンではなく、森と一体になるパビリオンを考えた」と振り返った。
伊東氏は2000席の円形劇場となるEXPOホールを解説。「文明は土から離れていくが、文化は土に近づいていく。文化の建築とは農業みたいなものだと思う。われわれはそんな建築を造りたかった。(文明を求める)万博協会のイメージから外れようとした」とEXPOホールへの思いを語った。
里山再生活動に取り組む塚本氏は近代化社会に対し伊東氏と同じ思いがあるとし、「人間は寝たり食べたり働いたりと変わらないが、それを支えるツールや環境は変わっていて、いつの間にか人間がそれに合わせて振る舞う。人間像の変化が気づかないうちに起きている」と分析。「『経路依存』(制度や仕組みが過去の経緯や歴史に縛られる現象)の社会にわれわれが完全に取り込まれている」と警鐘を鳴らした。
万博会場の休憩所やトイレなど20施設を、若手建築家20組が設計した。伊東氏は「若い人たちは自分たちの活動をしながら設計もやる。そういう人たちに期待している。でも万博のコンペになると自己完結型ですごさを示すような古い建築家像を引きずらないといけない」と指摘し、コンペのシステムを変える必要性を説いた。
妹島氏も「(コンペは)分かりやすく、説明がつかないと絶対に勝てない。何か分からない本当に新しい活動が入ってこない。(新しい活動が)選ばれてくると、今までと違う建築家像が出てくると思う」との見解を示した。
藤本氏は建築家20組を選ぶ過程で「確かに何百作品の中だと、強いアイデアを選びたくなる。ただ彼らは背後でいろいろな活動をしていて、アイデアだけでなく普段の活動がブレンドしていくようなものになってきた」と若手の作品に期待を寄せた。
建築界は今回の万博から何を引き出すのかとの問いに、藤本氏は「グローバルな状況とどう共存できるかという問題とも言える」と再定義。塚本氏は「各国の良いところを持ち寄るが、悪いところも持ち寄ってみる。困りごとを伝え合う万博は一体感が出るだろう」と提案した。
第2回は万博開幕後の4月28日午後7時から、伊東建築塾恵比寿スタジオで開かれる。パネリストは▽宇野常寛(批評家)▽忽那裕樹(ランドスケープデザイナー、大阪・関西万博会場デザインプロデューサー補佐)▽永山祐子(建築家、大阪・関西万博パナソニックパビリオンほか設計者)▽中村佑子(作家、映画監督)-の4氏。モデレーターは引き続き藤村氏が務める。