政府WG/南海トラフ地震の被害想定見直し、あらゆる主体の総力結集を

2025年4月1日 行政・団体 [1面]

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 南海トラフ地震の被害想定や防災対策を議論してきた政府の有識者ワーキンググループ(WG)は3月31日、最終報告書を公表した。最新データに基づき被害想定を見直した結果、想定される最も規模の大きな地震が発生すると、最大で死者29・8万人、建物倒壊は約235万棟に上ると推計。資産被害は約224・9兆円、経済被害は約45・4兆円に達する。報告書では「あらゆる主体が総力を結集して災害に臨むことが必要」と訴えている。
 政府は「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」策定から10年を機に、対策の進歩や最新知見を反映させた計画改定に着手。中央防災会議(会長・石破茂首相)が「南海トラフ巨大地震対策検討WG」(主査・福和伸夫名古屋大学名誉教授)を2023年4月に立ち上げ、議論を重ねてきた。
 報告書ではプレートや断層域を精査し、地震や津波のモデルに変更の必要なしと結論。一方、地形・地盤データの高精度化により、津波浸水域(30センチ以上)は約3割増加。震度7の揺れに襲われる自治体数も143から149に増えた。
 地震と津波による建物などの被害額は最大193・4兆円、電気・ガス・水道や交通機関、土木施設などライフラインの被害は31・5兆円に上る。被害算出式の見直しなどで単純比較できないが、10年前と比べて建物等被害は45兆円、ライフライン被害は10・4兆円増加。一方、最大死者数は2・4万人、全壊焼失棟数は15・4万棟減っており、防潮堤や津波避難タワーの整備と耐震化の進展がある程度反映された。
 報告書では地震対策の基本的な考え方として▽地震・津波から命と社会を守る▽直接的被害を免れた命の保護と生命維持▽生活や社会経済活動の早期復旧-の3点を掲げた。事前防災の観点から強靱化・耐震化・早期復旧の推進を重要な対策と位置付けた。建物の耐震化は、人的・物的被害の軽減につながる「重要かつ根本的な取り組み」とし耐震診断や改修の促進、沿岸部の液状化対策などインフラ強靱化の加速を求めた。
 津波だけで最大で死者21・5万人、全壊建物18・8万棟と想定した。対策として、早期避難意識の醸成などソフト対策に加え、防潮堤などハード対策の重要性も強調。高台移転や土地利用の見直しなど、事前復興準備も必要とした。
 東西の震源域で時間差で発生する「半割れケース」も初めて検討した。同ケースでは繰り返しの揺れで建物倒壊が増える一方、津波の死者数は減る可能性がある。東側の先発地震の後、数日たって西側で後発地震が発生するケースでは、建物倒壊は単独で発生する場合より3・1万棟増えるが、津波による死者数は5・3万人減る。事前避難が徹底されていれば、最大で98%程度の減少が可能とした。
 政府は報告書を踏まえ防災対策推進計画の改定に着手する。報告書が課題と指摘した地震対策のモニタリング体制や技術開発、広域性を考慮したリソースの確保策、地盤と建物基礎の研究など対応策の具体化にも取り組む方針だ。