日本古来の文学として知られる「御伽草子」は鎌倉時代末から江戸時代にかけて編さんされた短編文学で、現存する作品は300編を超えるという▼物語の主人公は高僧や公家、武士、庶民など多種多様。親しみやすい文章が特徴で、単純な筋書きを通じて人生の教訓や知識を読み手に教えてくれる。多くの人が幼い頃、一寸法師などを読んだり聞いたりした経験があるだろう▼浦島太郎は御伽草子の中でも特に有名な物語。いじめられている亀を助け、お礼に竜宮城で歓待された後、乙姫と約束したにもかかわらず玉手箱を開け、あっという間に年老いてしまう。子どもの頃は分からなかったが、改めて考えると良い行いを心掛ける、約束を守るのは大切、快楽に溺れてはいけないなど、読み取れる教訓が多いことに気付く▼新年度に入り企業や行政機関で新しい職場や部署に異動した人も多いと思う。たった数年離れていただけなのに事情が分からず戸惑ってしまう。組織の動きに取り残された心境を「浦島状態」と呼ぶ▼小欄も3年ぶりで東京に戻った。玉手箱を開けようか開けまいか…。太郎の迷いが少しだけ分かる気がする。