スコープ/東京都が多摩地域の振興推進へアクションプラン策定、安定成長など後押し

2025年4月10日 論説・コラム [12面]

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 都市機能と豊かな自然が調和し暮らしやすい東京・多摩地域で、都が地域振興をさらに進める。2025年度からおおむね3年間を対象にした「多摩振興アクションプラン」を基に、少子高齢化や産業構造の変化など地域が抱える課題の解決に道筋をつける。自然環境や歴史・文化、既存施設など多様な資源を活用し、地域のポテンシャルを引き出す。激甚化する自然災害にも備え、地域の安定した成長につなげる。
 多摩地域は東京の西側に位置する30市町村(26市3町1村)で構成する。面積は約1160平方キロ、人口は24年12月時点で約430万人。25年までは人口の増加が続くが、同年以降は減少基調となり、50年には412万人になる見込みだ。
 「高度経済成長期に急速に発展した多摩地域がさらに成長を遂げるためには、人口減少や高齢化、空き家の問題など、地域の課題をチャンスに変えていく発想が重要だ」。小池百合子知事はアクションプラン策定の理由をそう説明した。
 同プランで柱となる取り組みは移住・定住促進策や空き家対策だ。多摩地域の23年の空き家は約24万戸で、増加傾向にある。築40年以上の団地も多く、老朽化が深刻化している。都は多摩の魅力を積極的に発信するとともに、空き家活用に向けた市町村の取り組みを後押しする。空き家を移住者向けに改修する事業者を地元自治体が支援する場合、都も財政面でサポートする。
 アクションプランを取りまとめた都総務局の担当者は「移住してもらうだけでなく、地域のコミュニティーに入ってもらうのも大事」と話す。コミュニティーサロン(集会所)などを活用した移住者の居場所づくりなども促す。
 移住者が定住しやすいまちを実現するため、都都市整備局が中心になって取りまとめた「多摩のまちづくり戦略」と連携する。八王子や立川など多摩エリアの拠点に位置付けた地区では都市開発により都市機能の集積を図る。空き家など既存ストックも活用し、現在のまちの構造を変えずに地域の個性や魅力を前面に打ち出す。
 多摩都市モノレールの箱根ケ崎方面(瑞穂町)への延伸を契機としたまちづくりにも取り組む。多摩のまちづくり戦略に基づき、延伸部に当たる東大和市、武蔵村山市、瑞穂町で新駅周辺を中心に商業や医療、スポーツなど多様な都市機能が集積したエリアを形成する。
 道路ネットワークの形成や交通渋滞の解消などを促すため、連続立体交差(連立)事業も加速する。西武新宿線や国分寺線、西武園線の東村山駅(東村山市)付近では鉄道を高架化し、5カ所の踏切を撤去する。西武新宿線の井荻駅(杉並区)~西武柳沢駅(西東京市)でも鉄道高架化により19カ所の踏切を除去する。
 防災・減災関連では、主に中小河川の洪水対策を推進する。護岸や調節池の整備を急ぎ、気候変動により激甚・頻発化する豪雨に備える。護岸は主に▽空堀川▽浅川▽川口川▽奈良橋川▽柳瀬川-を対象に整備する。
 町田市などを流れる2級河川・境川では複数の調節池を建設している。境川木曽東調節池は25年度に、境川金森調節池は26年度に稼働を始める。境川木曽西調節池は24年度に着工した。武蔵野市と西東京市にまたがる石神井川上流地下調節池では25年度に本体工事に入る。
 災害時の応急対策活動の中核を担う立川広域防災基地(立川市)へのアクセスルートの複数化も図る。道路の「中央南北線」や「立川東大和線」を建設。JR青梅線との立体交差化やJR南武線との連続立体交差化を目指す。
 高度・多様化する医療ニーズに対応するため、病院の再整備にも注力する。
 医療施設が集積する府中市の「多摩メディカル・キャンパス」では、がん検診センターの精密検査機能を重点化した「多摩総合医療センター東館」や、総合的な難病医療を提供する「難病医療センター(仮称)」を建設。清水建設らが設立した特定目的会社(SPC)が施設の施工、維持管理業務・運営業務などを担う。
 東村山市では多摩北部医療センターを南西側にある都有地に建て替える。新病院は8階建て延べ3万2510平方メートルの規模。25年度ごろに地盤調査や基本設計などに着手する。
 アクションプランをまとめた都の担当者は「都としての事業だけでなく、市町村が主体で注力する事業に対しての補助を盛り込んでいる。課題だけではなく、それぞれの地域が持つ良さも発揮できるよう、しっかりと取り組む」と話す。