大成建設は山岳トンネル工事の安全対策として、VR(仮想現実)を用いた切羽観察システム「T-KIRIHA VR」を機能拡張した。新たにVR空間内で岩盤の亀裂面や地層面を計測する機能を追加。切羽前方の落石が懸念される不安定な岩塊の位置や規模を的確に予測し、肌落ちの災害リスクを可視化する。今後は実際のトンネル現場に適用し、安全性のさらなる向上や工程の遅延防止に役立てる。
同システムは2023年に開発した。3Dレーザースキャナーで切羽を計測、取得した点群データに基づき、10分の測定でVR空間上に再現する高精度の切羽を近接観察することで、いつどこでも地山状況を正確かつ詳細に把握できる。ウェブ会議システムを通じて発注者や現場作業所と共有し、同社の地質専門家が遠隔でも適切な支保工を選定しやすくなる。
今回の機能拡張では、VRを用いた切羽観察の精度を高めた。新たに地層面や岩盤に生じる亀裂面の走向傾斜(方位や傾斜角)データが計測できる機能を追加。計測した亀裂面を仮想の円盤モデルで表示し、複数の亀裂面を組み合わせて可視化する。
亀裂面の計測データを踏まえ、崩壊リスクが高いくさび状岩塊の出現位置や規模、安定度を解析する「キーブロック解析」も取り入れた。切羽前方の不安定な岩塊を事前に把握し、掘削による肌落ち災害リスクの回避につなげる。
今後は機能拡張した同システムの現場適用を推進しながら、継続して不安定な岩塊の予測精度向上など機能改善に取り組む。現場から離れた場所で施工状況を確認したり立ち会ったりするような遠隔臨場のツールとしても活用し、発注者や工事関係者間の円滑な合意形成を図る。