東京海上ホールディングス(HD)がID&EHDを株式公開買い付け(TOB)で子会社化し、建設コンサルタントの技術力を生かした防災・減災の対策提案サービスを始める。水害や地震のリスク分析に基づく事前対策や、災害後に同じ被害を起こさないための改良復旧を提案する。まちづくりや脱炭素を絡めた事業モデルを構想し、将来的には収益構造の改善にもつなげていく。2025年度早期の現場展開を目指す。
日刊建設工業新聞の取材に応じた東京海上HDビジネスデザイン部の担当者は、現在の保険サービスとID&EHDの工学技術との補完関係で「事前事後のハード対策を具体的に提案できるようになり、活動の幅が広がる」と説明する。顧客に事前対策をしてもらい「リスクを低減することで保険金の支払いが減り、結果として顧客に負担してもらう保険料を下げるという、会社と顧客の両方にとって良い循環をつくる」ような将来像を描いている。
24年度は事業モデルのあらましを検討してきた。25年度上期にもサービスを現場展開できる形に整え、顧客に提案していきたい考えだ。ビジネスデザイン部の担当者は「被災した施設のエネルギー供給や、再開発事業での防災機能の検討など、レジリエンス全体に横串を刺した提案をしたい」と全体像を語る。
東京海上HDとID&EHDは既に防災、都市空間、エネルギーの3分野で「ビジネス協業分科会」を設けている。各分科会が協業による事業モデルを具体的に検討する。防災分科会は災害リスクの回避・低減につながるソリューション開発を議論。都市空間分科会は防災基点のまちづくりや、交通事故防止のための技術連携などを視野に入れる。エネルギー分科会は脱炭素のビジネスモデルを検討している。
提案の例として、頻発・激甚化する水害対策に関する製造業へのアプローチでは「ID&EHDとの連携で、個別ロケーションを踏まえた浸水評価と具体的なハード対策プランを費用対効果と併せて提案ができる」。これにより「コストのかかるハード対策になかなか踏み切れなかった企業の意思決定をサポートする」ような方法を想定している。
ID&EHDが培ってきた公共事業のノウハウを生かせば、よりスケールの大きい対策が可能になると見る。担当者は「民間における防災対策だけでは限界がある。堤防整備や崩落防止といった対策は行政との連携が不可欠であり、ID&EHDを通じた行政への働き掛けも考えられる」と期待を込める。