◇6年前に採用と教育を抜本改革
札幌市を拠点に一般住宅やマンション、大規模ビルなどの左官工事を手掛ける中屋敷左官工業。社員の平均年齢は現在40代で、今春に新卒者が入ると30代に下がるという。離職者が後を絶たない状況に苦慮していた中屋敷剛社長が、あることをきっかけに一念発起したのが6年前。採用と教育を抜本的に見直すことで、高齢化が進行する業界内にあって社員の若返りを図り、事業の活性化につなげている。
先代の父が急死したのに伴い、ゼネコン社員だった中屋敷氏が社長に就任したのは1995年。28歳の時だった。だがその後、売り上げは伸ばしつつも、採用した若者がすぐに辞めてしまうという悩みを抱えていた。
ある日、女性事務員に頼んで作成した5年後、10年後の従業員名簿を見て、高齢化の進行にがくぜんとした。「これでは未来がない」。中屋敷氏は、これまでの求人のやり方を抜本的に改めようと考えた。
まず取り組んだのが、新しい会社案内作り。「お客さまと共に喜びや感動を創造」「左官の伝統技術を継承しながら常に新しいことに挑戦」「左官の素晴らしさを世の中に広めていく」。そんな企業理念を前面に押し出し、人材育成手法や独自工法によるトラブル解決、2008年に開かれた洞爺湖サミット(第34回主要国首脳会議)の会食会場の施工実績などを紹介した冊子を北海道内すべての工業高校に配布した。
その効果で5年前、高卒者を中心に18、19歳の若者6人の採用に成功。以来18人の若手が入ってきた。今では採用人数よりも応募人数の方が多い。この間に辞めたのはわずか1人。3年で半数が離職するといわれる業界の中で抜群の定着率を誇る。
中屋敷社長が作成した新入社員向けの即戦力プログラムには、自社の職長たちに「新人を預かるなら、何ができていてほしいか」をヒアリングした成果を落とし込んだ。
プログラムでは、入社から1カ月間は現場に出さずに研修に充てる。午前中の座学で「働くとは」「学生と社会人の違い」「左官の仕事」などから始め、学んだことをその場ですぐに実践するスタイルで身に付けさせる。そして午後は、「モデリング手法」による塗り壁トレーニング。映像に収めた一流職人の動きをまねながら、目の前のボードに塗っては剥がす作業をひたすら繰り返す。目標は1時間で20回。中屋敷社長はこれを「『仕事は見て盗むもの』の現代版」という。
少子高齢化が加速する今後は、「自分を育ててくれそうな会社」がキーワードになるとみる中屋敷社長は昨年、札幌市の隣の石狩市内に自前の左官技能研修センターを開設した。入社5年目をターゲットにした中期プログラムの実践を含め、職人としてさらなる高みを目指せる「場」と位置付けている。
新入社員向けの即戦力プログラムは現在、札幌左官高等職業訓練校に移し、同業他社の新入社員を含めた教育に役立てている。中屋敷社長が本部長を務める日本左官業組合連合会(日左連)青年部のメンバーとも共有しながら、「左官業界全体を元気にすることにつなげていければ」と考えている。