◇人材確保・育成は将来への先行投資/就職後2カ月を研修期間に
田村左官工業(大阪府高槻市、田村多喜志社長)は将来の事業展開を見据え、若い人材の確保・育成に注力している。高卒者の就職活動時期に合わせ、会社案内と求人票をセットにしたダイレクトメール(DM)を大阪から九州までの高校1000校に郵送。地道な活動が実を結び、この春8人の若者が入社した。
同社は田村社長の父親が1964年に創業。71年に法人設立も果たした。近畿エリアで大手の鹿島を筆頭に、準大手・中堅ゼネコンや地場建設会社などの1次下請として、左官工事を手掛けている。左官で培った技術を生かして耐火被覆工事などにもメーカーと共同で取り組む。
社員職人は35人。一人親方や協力会社を含めて常時80人体制で現場作業に当たる。現在の年商は7億50百万円程度で推移している。
職人の高齢化に伴い将来の発展に危機感を抱いていた田村社長が、高卒者の新規採用を試みはじめたのが5年ほど前。大阪を中心とする高校を直接訪問した。DMは当初、500校を対象に送付していたが昨年から1000校に増やした。毎年更新するパンフレットでは、春に入社した若者を顔写真入りで紹介しているほか、社内での2カ月間に及ぶ研修の様子も載せ、年齢の近い若者が奮闘する姿に親近感を持ってもらえるよう、工夫している。興味を持った若者を対象に現場見学会なども催す。
こうした活動が3年ほど前から実際の入職にもつながり、15年春に1人、16年春は3人、17年春には5人が入社。この春入社した8人の中には広島県の高校を卒業した女性も1人いる。新卒者のほか退職自衛官も採用している。
入社後2カ月の研修では、富士教育訓練センター(静岡県富士宮市)の12日間コースを通じて社会人としての基礎を学んだ後、会社に戻って座学と「タムラハウス」と呼ぶ高槻市内の社員寮1階スペースを利用した実技研修を実施。機械や工具の使い方、土を塗っては剥がす塗り壁トレーニングを通じて、左官技能の基礎を習得する。
現場に配属される前の研修によって、思い描いていた仕事と実際の現場作業とのミスマッチ解消に役立てている。実際、研修を始めてから定着率も向上するなど、効果を上げているという。
研修の様子は動画に撮り、会社のホームページで紹介するほか、DVDを入社した若者の卒業校に配布することで、頑張っている様子を知ってもらう。人材の確保・育成に向けて行うこうした活動の繰り返しによって「高校の先生たちとのパイプもより太くしていきたい」(田村社長)とする。
同社は、ベトナムからの技能実習生も受け入れている。今年は実習修了者が外国人建設就労者として再入国する予定だ。日本での経験を生かしてもらいたいと、帰国後の受け皿作りも模索している。
仕上げ工事の乾式化が進み左官の需要が縮小しているが、田村社長は「人材を育てていけば、マーケットは広がると思うし、新しい事業展開も見込める」と確信。健全な財務体質の確立と人材への先行投資で、将来の発展に備える。